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東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)106号 判決

原告 甲野太郎

被告 豊島税務署長 森居勝雄

右指定代理人 杉山正己

〈ほか四名〉

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五九年八月二九日付けでした原告の昭和五八年分の所得税に関する申告納税額を二二万四九〇〇円とする更正のうち六万五二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  被告が昭和六〇年四月三〇日付けでした原告の昭和五九年分の所得税に関する申告納税額を二四万〇八〇〇円とする更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  被告が昭和六一年六月三〇日付けでした原告の昭和六〇年分の所得税に関する申告納税額を七五万一一〇〇円とする更正のうち一七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(いずれも昭和六一年九月二四日付けの更正及び変更決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五八年分ないし同六〇年分の所得税につき、別表一の一ないし三の各申告欄記載のとおり、確定申告をした。

2  これに対して、被告は、別表一の一ないし三の各更正・賦課決定欄記載のとおり、更正及び過少申告加算税賦課決定をした。

3  右更正等は、いずれも違法である。

4  原告は、右更正等に対して、別表一の一ないし三の各異議申立て及び審査請求欄記載のとおり、異議申立て及び審査請求をしたところ、別表一の一ないし三の各異議決定及び裁決欄記載のとおり、いずれも棄却された。

5  よって、本件各更正及び各過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和六〇年分の所得税に関する更正及び過少申告加算税賦課決定については、昭和六一年九月二四日付けの更正及び変更決定により一部取り消された後のもの、以下同じ。)の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項を認める。

2  同第2項を認める。

3  同第3項を争う。

4  同第4項を認める。

三  被告の主張

1  本件課税処分の根拠及び適法性は、次のとおりである。

(一) 本件各更正の課税根拠

(1) 原告の本件係争各年分の所得の種類別の収入金額、必要経費の額、給与所得控除額及び所得金額並びに総所得金額は、別表二の一ないし三記載のとおりである。

(2) 事業、給与、雑及び配当の各所得の収入金額は、別表三記載のとおりである。

(3) 昭和五八年分及び昭和五九年分の事業所得及び雑所得の必要経費の額は、原告の右各年分所得税の確定申告における必要経費の額の収入金額に対する割合三〇パーセントを適用して計算したものであり、昭和六〇年分の事業所得の必要経費の額は、原告が同年の確定申告書に同所得の必要経費として記載した額である。また、給与所得控除額は所得税法二八条三項(昭和五八年分については昭和五九年法律第五号による改正前のもの)に基づき計算したものである。

(二) 本件各更正の適法性

右のとおり、原告の昭和五八年分の総所得金額は四七一万三一九〇円、昭和五九年分の総所得金額は六八九万四二一六円、昭和六〇年分の総所得金額は九三八万三九九〇円であって、いずれも本件各更正の金額と同額であるから、本件各更正は適法である。

(三) 本件各過少申告加算税賦課決定の適法性

本件各過少申告加算税賦課決定は、国税通則法六五条一項の規定に基づき、本件各更正により納付すべき税額(同法一一八条三項により一万円未満を切り捨てた金額)である昭和五八年分一五万円、昭和五九年分三二万円及び昭和六〇年分六〇万円にそれぞれ一〇〇分の五の割合を乗じて算出した過少申告加算税を賦課したものであるから、適法である。

四  原告の認否及び主張

1  被告の主張1の(一)は、所得の帰属に関する部分及び総所得金額を除いて、すべて認める。

同(二)、(三)は争う。

2  原告は、昭和五八年六月三〇日乙山花子と婚姻したが、これより前である同月二七日同人と夫婦財産契約を締結し、同月二九日その登記を経た。

原告及び乙山花子は、右夫婦財産契約第二条ないし第四条において以下のとおり約した。

第二条 夫あるいは妻がその婚姻届出の日より前から有する財産は、各自の特有財産とする。

第三条 夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産は、第四条に定めるものを除き、夫及び妻の共有持分を二分の一宛とする共有財産とする。

第四条 夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産のうち、前条の例外として、それを得た者の特有財産になるものは本条各号に定めるものとする。

一  第二条に規定する特有財産の果実

二  いかなる名目であれ、身体・精神へ侵害・打撃を受けたことにより支払いを受ける金員及びその果実

三  死因贈与、遺贈、相続によって得た財産及びその果実

四  特有財産あるいはその果実について、売買、交換、譲渡その他の処分をしたことによって得た財産

夫婦間において民法の定めに従って登記された夫婦財産契約は、国を含む第三者に対抗することができるものであるから、右契約に従い、原告が得た収入の二分の一が原告の所得となるものである。

これを詳述すると、次のとおりである。

(一)  (夫婦財産契約における共有の定め)

民法七六二条は、「夫婦の一方が……婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産とする」と規定しているが、前述のとおり、原告らは夫婦財産契約を適法に登記しているのであるから、当該契約中に右条項と反する内容が規定されている場合には、民法の規定ではなく当事者間の合意が優先することになる。

ところで、本件夫婦財産契約は、その第三条において「夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産は、第四条に定めるものを除き、夫及び妻の共有持分を二分の一宛とする共有財産とする」と規定しているのであるから、本件で対象とされている時期の所得については、夫(原告)及び妻が各二分の一ずつの持分を有する両者の共有財産なのである。

右の結論は、夫婦財産制に関する現行の規定から導かれる当然の解釈である。たとえば、現行の親族法が制定された直後のコンメンタールである『註釈親族法(上)』(昭和二五年)は、七六二条の解説において、

「夫婦の一方が婚姻前から有する財産は、婚姻に際して相手方に贈与されるとか、特殊の財産契約を結ぶとかしない限り、そのままその一方の財産である。婚姻中に夫婦の一方の名で得た財産についても、同様である。例えば、夫が会社員、労働者等として得た俸給、自己名義の営業から得た収入、自己の財産を売却して得た代金、これらの金銭を以て自分の名で買い入れた動産、不動産等は、みな夫の財産である。たとえ、それらの所得に対して妻の内助の貢献するところが大であったとしても、そのためにその所得が共有となるわけではない」(前掲書二二二頁、有泉教授担当)

としているが、右の反対解釈として、「特殊の財産契約」を結んだ本件の場合には、その契約が優先するのであり、夫が会社員等として得た俸給、自己名義の営業から得た収入などは、共有となるのである。

(二)  (旧民法からの継受)

現行の民法第四編第五編は、昭和二二年法律第二二二号により、明治三一年法律第九号で定められた民法第四編第五編を全面的に改めたものである。しかし、本件で問題とされている夫婦財産制については、親族法相続法における他の規定と異なり、妻の財産に対する夫の管理権(旧民法八〇一条)など僅かの部分を除いては、民旧法の規定がそのまま存置されたのである。

したがって、現行民法における夫婦財産制の解釈にあたっては、旧民法の解釈ならびに立法者意思をも参照すべきであり、特に後者は、現行規定の解釈の基とされるべきものであって最も重要である。この点については、民法の実質的起草者である梅謙次郎博士が『民法要義』(明治四五年)を著しており、これを参照するのが最も適当である。そして、夫婦財産制度については、『民法要義巻之四親族編』で、「夫婦カ婚姻ノ届出前ニ其財産ニ付キ別段ノ契約ヲ為ササリシトキハ其財産関係ハ次款ニ定ムル所ニ依ル」とした旧民法七九三条について、「本条ニ於テハ先ツ契約ノ自由ヲ認メ当事者ハ苟モ公ノ秩序ニ反スルモノニ非サル以上ハ如何ナル契約ヲモ締結スルコトヲ得ヘキモノトセリ」とした後、立法当時における起草者が了知していた外国における夫婦財産制をいくつか列挙している。その中で「所得共通制」として梅博士が挙げているのは、「是レ当事者カ婚姻当時ニ有スル財産ヲ別々ニ所有スルモ唯婚姻成立ノ後各自カ収ムル所ノ所得ヲ共通ニスルモノナリ」(傍点原告)とするものである。

ところで、本件で問題になっている夫婦財産契約の内容は、この「所得共通制」とされているものにほかならないのであり、そのような内容の夫婦財産契約を夫婦となろうとするものが締結することについて立法者も起草の段階から了承していたものである。そして、右の説明から明らかなとおり、夫婦財産契約は、その内容どおりの効果が認められるべきことが原則であり、本件契約についても原告らの意思どおりの効果が認められるべきである。

したがって、契約当事者たる夫婦が、前記の契約を締結するにあたって、家庭生活における両者の役割を考慮したうえで、夫及び妻が婚姻の日以降に取得する所得については共有とすべきであることを定めたものである以上、当該財産は共有となるものであり、これにより、本件原告の所得はその名で得た財産の二分の一となる。

(三)  (所得の帰属の決定)

一般に、何らかの財産が発生・変更・消滅した場合に、その発生・変更・消滅の効果が誰に帰属するのかの決定は民事実体法の定めるところによるべきである。租税法(本件では所得税法)は、この民事実体法によって定まった財産の発生・変更などのうちのある範囲のものを所得と捉え、これについて所定の租税を賦課することを定めるものであり、実体法と離れて、独自に財産の発生・変更・消滅などの帰属を決定することは原則としてない。したがって、租税法において、特定の目的のために所得の帰属あるいは範囲などについて特例を設けた場合は別として、それ以外の場合には、財産の発生・変更・消滅の帰属については民事実体法の定めるところによるものである。

本件の場合には、民事実体法たる民法が明文をもって、夫婦の財産関係については当事者の自治に任せる場合があることを認め、その要件を定めているのであるから、本件のようにその要件を満たしている場合には、当事者の意図した効果がそのまま認められるべきである。そして、夫婦財産契約が締結された場合の財産の発生(所得)の帰属について民法と異なる規定をした租税法規は存在しないのであるから、右に述べた例外の場合にもあたらず、結局において、夫婦財産契約は、契約当事者たる原告の意図どおりの効果が与えられるものである。

本件夫婦財産契約第三条が、「夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産は、第四条に定めるものを除き、夫及び妻の共有持分を二分の一宛とする共有財産とする」と定めているとおり、本契約は、いったんどちらかが取得した財産をその後に他方に「分配」しようとするものではなく、どちらの名義をもって得たものであっても、それらの財産はいずれも、原始的に、譲渡・移転など何らの法律行為をすることなく、持分二分の一宛の共有財産となるべきことを規定しているのである(この点は、民法上の組合が得た財産(業務執行によって取得した財産、あるいは組合財産から生じた財産など)が総組合員の共有に属する(民法六六八条)ことと類似して考えられるところである)。原告は、甲第二、三号証などの文献を参照しながら(これらの文献が「所得を共有にする夫婦財産契約」の存在を認めていることは明らかである)、右のような効果を有するべきことを意図して、本件の夫婦財産契約を締結したものであって、本件夫婦財産契約は、一方が、いったん取得した財産を譲渡、分配することを包括的に取り決めたものでは決してない(そのような効果を発生させることは原告らは意図していない)。契約は、当事者の意思どおりの効果が認められるべきことが原則であり、租税法に特段の規定もないところで、被告が、当事者の意思と異なる解釈をなすことは認められないところである。

(四)  以上を要約すれば、次のとおりである。

(1) 民法は、法定夫婦財産制と異なる夫婦財産制を一定の要件の下に認めている(民法七五五条ないし七五九条)。それが認められる基礎となるのは、夫婦間の契約である。

(2) 私的契約の解釈においては、まず尊重されるべきは当事者の意思である。

(3) 原告らは、婚姻後に得る所得を共通にするという意思を有し、そのような効果を生じるものとして本件夫婦財産契約を締結・登記し、民法上の要件を満たした。

(4) したがって、原告らの夫婦財産関係については、本件夫婦財産契約の定めが適用されるものであり、これによれば原告ら夫婦の所得は共通となる。

五  原告の主張に対する被告の反論

原告は、夫婦が夫婦財産契約を締結している場合には、同契約に基づき定まる財産の帰属関係を基礎に、所得の帰属を認定すべきであると主張する。

しかしながら、以下に述べるとおり、原告の右主張は、独自の見解であって到底採用することはできない。

1(一)  我が国の現行所得税法が個人を課税単位とする稼得者課税の原則を採用していることは、以下に述べるとおり明らかである。

すなわち、所得税法は、その課税単位を個人としている(同法五条一項、二条一項三号)ところ、非永住者以外の居住者には、その稼得したすべての所得について所得税を課すこととしており(同法七条一項一号)、その所得とは、各種所得の収入金額から必要経費等を控除したものである(同法二一条、二二条、二四条(配当所得)、二七条(事業所得)、二八条(給与所得)、三五条(雑所得))から、当該収入金額を稼得した個人が所得税の納税義務を負うものであることは自明の理である。

そして、当該収入金額の稼得者とは、事業から生ずる所得(事業所得)にあっては、事業の主宰者であり、給与所得等役務又は労務から生ずる所得にあっては、その役務又は労務の提供者である(なお、資産から生ずる所得にあっては、その資産の権利者である。)ことも自明の理である。

(二) しかるところ、被告が本件各更正において原告の所得に係る収入金額とした別表二の各金員のうち、事業所得に係る収入金額は、原告が弁護士としての業務(事業)を行って得た報酬であり、給与所得に係るそれは、原告が使用者との雇用契約に基づき労務(労働力)を提供して支給された給与等であり、雑所得に係るそれは、原告が請負契約に基づき仕事(原稿)を完成して支給された原稿料である。

したがって、所得税法上、右各金員に係る所得について原告に納税義務があることは明らかである。

2  これに対し、原告は、財産の帰属は民事実体法の定めるところによるべきところ、本件夫婦財産契約により、原告が婚姻後に取得する財産は原告夫婦の各共有持分を二分の一とする共有財産となるから、所得税法上も右二分の一が原告の所得となると主張するようである。

しかしながら、本件夫婦財産契約は、その契約文言(三条)、すなわち「夫及び妻が……得る財産は、……」との文言からも明らかなとおり、「夫婦の一方が」「婚姻中自己の名で得た財産」(民法七六二条一項)を夫婦の共有財産とするという合意であるから、婚姻中に夫又は妻が取得した財産を夫婦間のいかなる所有状態とするかをあらかじめ包括的に取り決めたもの、すなわち、一旦、夫婦のうちの一方が取得した財産の帰属形態に関する問題に係るものであって、これは、稼得者課税の問題とは別の次元に関することであり、したがって、右契約が存することによって、前記一の所得税の納税義務者たる稼得者が決定・変更されるものではない。

仮に、原告の妻が本件夫婦財産契約により原告が稼得した所得(収入)の二分の一の金員を取得したとしても、原告の妻は、事業(弁護士業)を営むものではなく、使用者との雇用契約に基づき労働力を提供して給与等の支給を受けた者でもなく、請負契約に基づき原稿を完成して原稿料の支給を受けた者でもないから、右金員は、事業所得、給与所得、雑所得には当たらないことは明らかである。かえって、原告の妻が本件夫婦財産契約により原告から取得する金員は、夫婦の生活費として通常必要と認められる分を除いては、原告から妻に対する財産の贈与(無償譲渡)となり、贈与税の課税対象となるものであり(右贈与税の非課税財産に関しては相続税法二一条の三第一項二号)、所得税法上は、一時所得に該当する(同法三四条一項)が、非課税とされているものである(同法九条一項一九号、二〇号)。

以上のとおり、原告の右主張は、独自の見解であって、到底採用することができない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第1、2項記載の事実(原告のした本件各係争年分の確定申告及びこれに対する被告の更正及び過少申告加算税賦課決定の存在)については、当事者間に争いがない。

二  原告は、夫又は妻が得る財産は夫及び妻の共有財産とする旨の夫婦財産契約を締結したから、原告の得た収入の二分の一は妻のものであり、原告の所得はその収入の二分の一であると主張し、被告のした本件更正等は、原告の所得をその収入の二分の一としなかった点において違法であると主張するので、この点について判断する。

1  《証拠省略》によれば、原告が締結した夫婦財産契約には、「夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産は、……夫及び妻の共有持分を二分の一宛とする共有財産とする。」という条項があることが認められるが、この条項はその文言によって明らかなとおり、「夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産」について、これを「夫及び妻の共有持分を二分の一宛とする共有財産とする」ものであって、夫又は妻が一旦得た財産を夫婦間において共有財産とするもの、換言すれば、夫又は妻が一担取得した財産の夫婦間における帰属形態をあらかじめ包括的に取り決めたものと解される。

そうすると、右条項は、ある財産が夫又は妻が一旦得た財産であることまで変更するものではないというべきであるから、原告が弁護士としての業務(事業)を行って得た報酬である事業所得に係る収入金額、原告が使用者との雇用契約に基づき労務を提供した対価として支給された給与等である給与所得に係る収入金額及び原告が請負契約に基づき仕事(原稿書き)を完成した対価として支給された原稿料である雑所得に係る収入金額等の各全額を、いずれも原告の所得に係る収入金額であるとした被告の本件各更正に原告主張の違法性はないものといわなければならない。

2  この点について、原告は、原告の締結した夫婦財産契約の右条項により、原告らは、夫又は妻の一方が得る所得そのものが原始的に夫婦の共有に属することを意図したものであって、私的自治の原則により、当事者の意図したとおりの効果が発生せしめられるべきであり、かつ、これが登記されていることにより、国及び第三者に対抗しうるものであると主張する。

しかしながら、ある収入が誰に帰属するかという問題は、単に夫及び妻の合意のみによって決定されるものではなく、例えば雇用契約に基づく給料収入であれば、その雇用契約の相手方との関係において決定されるものである。雇用契約において、労務を提供するのは被用者たる夫婦の一方であって、夫婦の双方ではなく、したがって、労務の対価である給料等を受け取る権利を有する者も被用者たる夫婦の一方であって、夫婦の双方ではないのであり、仮に夫婦間において夫婦の双方が右給料等を受け取る権利を有するものと合意したとしても、それだけでは、その合意は、雇用契約の相手方たる使用者に対しては何らの効力を生ずるものではないといわなければならない。けだし、右給料等を受け取る権利を夫婦双方の共有とすることは、雇用契約の内容を変更することにほかならないのであるから、雇用契約の相手方たる使用者との合意によるのでなければ、同人に対してその効力を生ずるによしないものといわなければならないからである。そして、ある収入が所得税法上誰の所得に属するかは、このように、当該収入に係る権利が発生した段階において、その権利が相手方との関係で誰に帰属するかということによって決定されるものというべきであるから、夫又は妻の一方が得る所得そのものを原始的に夫及び妻の共有とする夫婦間の合意はその意図した効果を生ずることができないものというべきである。なお、このように、夫婦間の右合意がその意図した効果を生じないものである以上、夫婦財産契約が登記されているかどうかによって右結論が左右されるものでないことは明らかである。

したがって、結局、原告の前記主張は理由がないものといわざるを得ない。

三  本件各更正の課税根拠については、右の所得の帰属に関する部分及び総所得金額を除いて、すべて当事者間に争いがないものであるところ、右によれば、被告主張の収入金額はすべて原告の所得に係る収入金額であるというべきであり、したがって、総所得金額も被告主張のとおりであると認められるから、これを前提としてされた被告の本件各更正及び各過少申告加算税賦課決定に何らの違法はないものといわなければならない。

四  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 中山顕裕 裁判官山崎恒は転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 宍戸達德)

〈以下省略〉

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